
7 頭の内部
笙を吹く人も、内部構造を知っていれば、何かの参考になるのではないかと思い記してみます。

頭のお椀は桐を使っており、息の湿気を吸収します。
柱は、蜂巣の部分を支えており、柱の中に鉛が入っているのは笙の下部に重心を与えるためです。鉛を入れずに全体を軽くしている笙もあると思います。軽いからといって、軽々しく口元へ運ばないようお気をつけ下さい。演奏上の見た目の問題として。
プラ管は、お椀がプラスチックですから、湿気を吸収しませんので、こまめに暖めるのが望ましいと思います。
8 笙を暖める目安の1つに
なぜ暖めるかについては、笙を習った人ならば先生からお聞きしていることでしょう。先生方の著書でも知ることが出来るでしょう。また、どれだけ暖めるかも、先生に教えられたとおりにしていれば問題はなく、経験を積むうちに何となくわかってくるものです。
・・・・で、何となくでは気の済まない人のために、こんな目安もあるということを記します。
暖めてから、吹こうとする前に笙の帯をずらしてみます。所定の位置に戻してから吹き始めます。練習が終わって最後に暖めようとするとき、帯をもう一度ずらしてみます。帯がきつくなっていませんか?そのきつくなった分だけ、竹が息の水分を吸収して太ったのです。
帯が最初の位置へ楽に戻るようになるには、相当暖めなければならないことに気付くでしょう。
頭(かしら)は桐ですから、これも水分を吸収しているはずです。これらの湿気を乾かさないと、竹がカビたり、リードがサビたりする原因になります。
吹き終わったあとも丁寧になさって下さい。
9 とりあえずの微調整
調律をしてもらって三ヶ月もすれば音が狂ってきます。先生が練習のあいまに直して下さる場合はよいのですが、それも常にというわけにはいきません。
笙を吹く人は誰でも、微調整くらい自分で出来たらと思うはずですが、先生は教えてくれません。なぜかというと、失敗して「先生」と言って泣き付かれても困るからです。汚れたリードをきれいにするのは手間がかかるのです。
ではどうすればよいか。リードを汚さずに微調整が出来ればよいのです。
吹いていて音が狂って来る一番の理由は、青石(しょうせき)の粉が飛んでリードが軽くなり音程が上がってしまう場合です。リードの透き間を埋めている粉が、ほんのわずか取れただけで影響するほど笙の音程は微妙です。特に小簧は影響しやすいのです。
蜜蝋も乾燥しますので、月日と共にピッチが上がります。
解決方法として、屏上(びょうじょう)に蝋を付けることをお勧めします。
笙の音程を決めているのは、屏上までの竹の長さと、りードの大きさと、オモリの大きさであり、リードに触らないで済むのは屏上です。
音程を下げるだけならば、屏上に蝋を付けて竹の長さを変えればよいわけです。1mmくらいで用が足ります。付けたり取ったりして音を確かめます。
蜜蝋が無ければローソクの蝋でもかまいません。ただし、調律に出すときは蝋をきれいに取ってからにして下さい。
針金は、クリーニング店から付いてくる針金ハンガーを使います。たぶん、身近にある手頃な針金はそれでしょう。
耳を養うには慣れるしかありませんが、とりあえずは音取(ねとり)の意味を理解してみることです。
調律を独習してみたい人は、『笙吹きロバ』さんのホームページをお薦めします。最初は『乞』一本だけ試してみるとよいです。出来るようになったら『一』というように低い音から一本ずつ手がけたらよいと思います。
最初から全部はずしてしまったらどうしょうもないですよ。とにかく、失敗して泣きながら身につけて下さい。
調律が出来るようになると、笙を吹く楽しさが倍増しますから。
10 青石(しょうせき)について
『青石』は緑青石(ろくしょうせき)を略した雅楽用語であろうと思います。
緑青石は、銅が腐食して化石になったもので、銅の錆びた緑青と同じ成分とのこと。専門の大学教授に聞いたところ、毒性はあるとのことでした。
学名マラカイトと言い、宝石として加工されます。その加工の課程で粉末を吸い続ける人は、身体に影響を及ぼすと聞きました。
日本画の原料は『緑青』と呼び、緑青石の粉末の大粒なものが濃い緑で、粒が細かくなるにつれて緑が淡くなり、もっと細かく白に近くなったものを白緑(びゃくろく)と呼びます。
緑青石を粉にしただけでは接着力はゼロで、日本画で使う場合はニカワで溶きます。水で溶いて塗っただけでは、乾けば吹いて飛ぶ粉に戻ってしまうだけです。
笙のリードに塗るのに、サワリの皿で摺りおろすのは、サワリに適度の接着力があるとしか考えられません。
そして、接着力の度合いは、青石とサワリの相性によると思います。双方の堅さが合っているのです。堅い石で金属をこするのですから、金属だって削れます。皿のサワリとリードのサワリが引き合って接着するのではないでしょうか。科学的な証明は学者に証明してもらうしかないですけど。
遠い昔、最初に青石を塗った人は何を見てそうしようと思ったか。想像するしかありませんが、何かの銅か青銅に出来た錆を見て気がついたのかもしれません。銅葺きの屋根か、路傍の青銅仏が雨に濡れて緑青が出来、固まった緑青が雨の滴をはじいているのに気付いたとか。何か想像の原点があり、材料を求め、模索を重ねたと思うのです。
今、私たちは、皿はサワリ以外ではだめなのか、石も青石以外はだめなのか、と考えるのも可能性の追求でありましょう。回り道をして元に戻ってもよいではないでしょうか。
ともあれ、美しく塗って美しい音を追求するのはそれなりのランクの人達であり、自分で塗り替えの出来ない人のためには、いかに長持ちするかの方が大事かもしれません。
11,青石の塗り方は表が先か裏が先か
「表が先に決まっているじゃないか」と言う方は先をお読みいただかなくてよいです。私の体験を記すまでのことですから。
笙を習っているときに、先生が調律の話をして下さり、「青石は裏から先に塗るのだよ」と言ったのを覚えておりました。私の聞き違いだったことが後でわかったのですが、その時は調律など遠い話と思っていい加減に聞いていたのかもしれません。
独学で調律を始めまして、先生の話を思い出し、青石を裏から塗りました。透き間を埋めるために何回か筆を加え、ほぼ乾いたとき表を塗ってみました。
ところが、なま乾きだと表の水分で透き間の青石が解けて、表の青石が裏へ流れてしまいます。乾くまで待てばよかろうと、2〜3日間をおきましたら、今度は乾きすぎて透き間の青石が水気をはじくものだから、その部分だけ塗り残ってしまいます。
あれこれやってみた結果、ほぼ一昼夜(約24時間)後に表を塗ればよいことがわかりました。
しかし、それでよいものか自信がもてず、調律の出来る人に聞いてみました。「表が先です」「えっ!」複数の人がその答えです。
先生に聞いてみました。「表が先だよ」
表を先に塗った方が仕事は早いです。その日のうちに両面塗れますから。
どちらが綺麗に仕上がるかというと、裏から先に塗った方が綺麗に出来ました。もちろん、私の技量としては、ですよ。
音はどうかというと、変わりない気がします。
2001.9.28
12,保温器の使い方
保温器で失敗した例を耳にします。
私の体験や、ひとの話などから、保温器の使い方を説明しておきます。
私も最初はそうでしたが、笙を暖めるという作業が何ともじれったくて、便利な方法はないものかと考えたものです。で・・、それを解決したのが保温器だと思ってはいけません。保温器は、便利な面と不便な面と両方備えているのです。
劇場は火気厳禁のところが多いです。控え室で電気コンロを使うのを大目に見られる場合もありますが、ステージでは保温器を使います。
控室でも保温器以外は許されない劇場もあります。その場合は、10分ほど暖めたら笙を抜き出して保温器の上に横にして乗せます。(多少でも竹が暖まるように)。5分ほどしたらまた差し込みます。というくり返しで暖め、15分以上差し込んだままにしてはいけません。密閉状態になって熱が上がり、蝋が溶けてしまいます。(室温によって時間差はあります)
蝋が溶けてリードがズレるのは余程長時間としても、オモリの形がゆがんだだけで音程が変わります。
だから、ステージで曲の間に差し込んでおく程度に心得て、お稽古に使うものと思わないで下さい。
保温器以外の暖房器具でも、うっかり時間がたつのを忘れて失敗した例は耳にしますから、笙を暖めるのに手抜きは考えない方がよろしいと思います。
暑くても、じれったくても、慣れてしまえば何でもなくなります。笙を吹く人の風流と思って下さい。
2002.7.14
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